2006年 09月 20日
ヘッジファンドの巨額損失 |
今やグローバルファイナンスの一大勢力となったヘッジファンド業界は、金融関係者やMBAの学生の間ではポピュラーになりつつあるものの、一般の間では「大手」と言われるファンドの名前すら全く知られていないほど、ある意味マイナーな業界です。
そんな業界において、アメリカで最大手の一つと言えるAmaranth Advisorsが、天然ガスの先物取引での失敗により、$3bn(約3,500億円)超という巨額のロスを出した、と言うニュースが、ここ数日ウォールストリートを駆け巡っています。
Amaranthはヘッジファンドのメッカであるコネチカット州グリニッヂに本拠を置く2000年設立のファンドで、運用資産額は$9bn(約1.05兆円)と言われています。私が前職での経験から知っている限りでは、同社の投資戦略は「マルチストラテジー」と呼ばれるもので、株式ロングショートも転換社債アービトラージもグローバルマクロも、何でもやるという形態です。
この手のヘッジファンドは相対的に運用資産額も大きくなる傾向があり、運用資産額が$10bnを超えるようなファンドのほとんどが、マルチストラテジーを採用していると言われています。
報道されているところによると、エネルギー価格のトレーディングにより昨年に$1bn(約1,200億円)、今年8月の終わりまでもプラス30%と言う優れたリターンを挙げていた同社は、過去45日の間にマイナス35%と言う信じられない水準までロスを膨らませてしまったそうです。先週NYのFour Seasonsのレストランで、同社のCOOが投資家に「年初来リターンは25%に達している」と話していたとの噂もあり、巨額損失が発生したのは、本当にここ数日のことなのかもしれません。
この$3bnという損失額のレベルは、かつて世界を震撼させたLTCM破綻時のロスに匹敵する規模とも言われており、またヘッジファンド業界で「最大手」と言われるファンドの運用資産額がせいぜい$5bn(約5,800億円)超程度であることからも、その大きさが伺えます。
報道されていたAmaranthから投資家に充てられた手紙の内容は最後に記しますが、仮にマイナス35%が通年のリターンと言うことになると、これは通常のヘッジファンドであればファンドクローズに追い込まれる水準です。と言うのもヘッジファンド業界には「ハイ・ウォーターマーク」と呼ばれるいわば「リターン目標」があるからです。
例えばその目標を+10%に置いているファンドが年間で-20%のロスを出してしまうと、次の年にはまずその20%を取り返し、更にプラス10%のリターンを挙げる、つまり合計で30%のリターンを挙げなければ、ファンドとしてインセンティブフィーを受け取ることが出来なくなります。まさに「高水位目標」であり、水面に出るまでは無償で必死に働くことが要求されます。
上の例で言うと、この30%という水準は当初目標の10%の三倍の水準であり、よほどのファンドマネージャーでなければ、その水準は回復不可能と判断して、一度ファンドをクローズするのが常だと言えると思います。
エネルギー価格、特に天然ガスのマーケットは極めてボラティリティが高く、かつてからヘッジファンドや証券会社の自己トレーディング部門の格好のプレイグラウンドになっているとの指摘があります。
当然ですがその分リスクも高く、エネルギー関係の投資に失敗したケースとしては、NY Mercantile Exchangeの元社長であるBo Collins氏が率いるMotherRockと言うヘッジファンドの破綻も記憶に新しいところです。同社の場合はエネルギー価格の下落に賭けて破綻したそうで、Amaranthとは逆のポジションになりますが、極めてボラティリティの高い天然ガスのマーケットでの投資(投機?)に失敗したと言う点では、共通していると言えると思います。
言うまでもありませんが、グローバルマクロ戦略のように、市場の一方的な動きに賭けをする「ディレクショナル」と呼ばれるストラテジーは、まさに市場の「ゼロ・サム・ゲーム」と言う性質に真っ向から立ち向かうことになる、極めてリスクが高い投資手法です。ヘッジファンドや証券会社の自己ポジション部門は、レバレッジを用いた「空売り」を用いることも出来るため、そのリスクは更に増大することになります。
今回の件とは全く関係ないですが、日本にある某ロングショートのヘッジファンドが、昨年40%超のリターンを挙げた後に今年30%マイナスになっている、との報道が最近Bloombergでありました。これらのファンドも、「ヘッジ」を標榜しつつも実際には単にロングオンリーに近い、つまりディレクショナルなリスクを取っているのではないかと想定されます。
しかし日本市場について言えば、市場全体が大幅に上昇している時に、ロングポジションで大勝ちするのは誰でも出来ることで、あり、そのリターンに対して破格のフィーを請求し、今年のようにマーケットが軟調な時に大幅なロスを出したのでは、何のためのヘッジファンドか、と言う気がしてしまいます。
そもそもヘッジファンドが高いフィーを正当化出来るのは、市場の変動に関わらず安定的に比較的高いリターンを出せるからであり、そういう意味で日本株に関して言えば、今年はヘッジファンドの選別が行われる年なのかもしれません。
ちなみにAmaranthでエネルギーのトレーディング部門の責任者だったBrian Hunter氏は、Deutsche Bankから2004年にAmaranthに転籍し、昨年は$75-100mm(約86~115億円)と言うボーナスを稼いで、業界紙Trader Monthlyで「最も稼いだトレーダー・トップ30」にランクされていたそうです。投資家から見れば稼いでくれさえすれば破格のボーナスも痛くないのでしょうが、それが単年度であったとすると、途端に高額のフィーの正当性が失われることになりそうです。
また今回のようにロスの金額が大きい場合、最悪のケースではLTCMのように金融市場全体に計り知れない影響を及ぼすことになり、規制当局や一般の間での「ヘッジファンド悪者論」が再燃することは間違いない気がします。Amaranthのケースは、今のところ危機的状況に陥ることはなさそうで、市場の安全弁が機能しているのがせめてもの救いですが、規制の少ない業界だけに、プレーヤーには規律が望まれるところです。
Dear Investor:
Last week, the Amaranth multi-strategy funds experienced significant losses in their energy-related investments following a dramatic move in natural gas prices. In an effort to preserve investor capital, we have taken a number of steps, including aggressively reducing our natural gas exposure.
As of this writing, we anticipate our year-to-date losses might be in excess of 35% as we near completion of the disposition of our natural gas exposure.
We have met every margin call to date. We are in discussions with our prime brokers and other counterparties and are working to protect our investors while meeting the obligations of our creditors.
We will report to you frequently as soon as we have further significant information.
Nicholas Maounis
そんな業界において、アメリカで最大手の一つと言えるAmaranth Advisorsが、天然ガスの先物取引での失敗により、$3bn(約3,500億円)超という巨額のロスを出した、と言うニュースが、ここ数日ウォールストリートを駆け巡っています。
Amaranthはヘッジファンドのメッカであるコネチカット州グリニッヂに本拠を置く2000年設立のファンドで、運用資産額は$9bn(約1.05兆円)と言われています。私が前職での経験から知っている限りでは、同社の投資戦略は「マルチストラテジー」と呼ばれるもので、株式ロングショートも転換社債アービトラージもグローバルマクロも、何でもやるという形態です。この手のヘッジファンドは相対的に運用資産額も大きくなる傾向があり、運用資産額が$10bnを超えるようなファンドのほとんどが、マルチストラテジーを採用していると言われています。
報道されているところによると、エネルギー価格のトレーディングにより昨年に$1bn(約1,200億円)、今年8月の終わりまでもプラス30%と言う優れたリターンを挙げていた同社は、過去45日の間にマイナス35%と言う信じられない水準までロスを膨らませてしまったそうです。先週NYのFour Seasonsのレストランで、同社のCOOが投資家に「年初来リターンは25%に達している」と話していたとの噂もあり、巨額損失が発生したのは、本当にここ数日のことなのかもしれません。
この$3bnという損失額のレベルは、かつて世界を震撼させたLTCM破綻時のロスに匹敵する規模とも言われており、またヘッジファンド業界で「最大手」と言われるファンドの運用資産額がせいぜい$5bn(約5,800億円)超程度であることからも、その大きさが伺えます。
報道されていたAmaranthから投資家に充てられた手紙の内容は最後に記しますが、仮にマイナス35%が通年のリターンと言うことになると、これは通常のヘッジファンドであればファンドクローズに追い込まれる水準です。と言うのもヘッジファンド業界には「ハイ・ウォーターマーク」と呼ばれるいわば「リターン目標」があるからです。
例えばその目標を+10%に置いているファンドが年間で-20%のロスを出してしまうと、次の年にはまずその20%を取り返し、更にプラス10%のリターンを挙げる、つまり合計で30%のリターンを挙げなければ、ファンドとしてインセンティブフィーを受け取ることが出来なくなります。まさに「高水位目標」であり、水面に出るまでは無償で必死に働くことが要求されます。
上の例で言うと、この30%という水準は当初目標の10%の三倍の水準であり、よほどのファンドマネージャーでなければ、その水準は回復不可能と判断して、一度ファンドをクローズするのが常だと言えると思います。
エネルギー価格、特に天然ガスのマーケットは極めてボラティリティが高く、かつてからヘッジファンドや証券会社の自己トレーディング部門の格好のプレイグラウンドになっているとの指摘があります。
当然ですがその分リスクも高く、エネルギー関係の投資に失敗したケースとしては、NY Mercantile Exchangeの元社長であるBo Collins氏が率いるMotherRockと言うヘッジファンドの破綻も記憶に新しいところです。同社の場合はエネルギー価格の下落に賭けて破綻したそうで、Amaranthとは逆のポジションになりますが、極めてボラティリティの高い天然ガスのマーケットでの投資(投機?)に失敗したと言う点では、共通していると言えると思います。
言うまでもありませんが、グローバルマクロ戦略のように、市場の一方的な動きに賭けをする「ディレクショナル」と呼ばれるストラテジーは、まさに市場の「ゼロ・サム・ゲーム」と言う性質に真っ向から立ち向かうことになる、極めてリスクが高い投資手法です。ヘッジファンドや証券会社の自己ポジション部門は、レバレッジを用いた「空売り」を用いることも出来るため、そのリスクは更に増大することになります。
今回の件とは全く関係ないですが、日本にある某ロングショートのヘッジファンドが、昨年40%超のリターンを挙げた後に今年30%マイナスになっている、との報道が最近Bloombergでありました。これらのファンドも、「ヘッジ」を標榜しつつも実際には単にロングオンリーに近い、つまりディレクショナルなリスクを取っているのではないかと想定されます。
しかし日本市場について言えば、市場全体が大幅に上昇している時に、ロングポジションで大勝ちするのは誰でも出来ることで、あり、そのリターンに対して破格のフィーを請求し、今年のようにマーケットが軟調な時に大幅なロスを出したのでは、何のためのヘッジファンドか、と言う気がしてしまいます。
そもそもヘッジファンドが高いフィーを正当化出来るのは、市場の変動に関わらず安定的に比較的高いリターンを出せるからであり、そういう意味で日本株に関して言えば、今年はヘッジファンドの選別が行われる年なのかもしれません。
ちなみにAmaranthでエネルギーのトレーディング部門の責任者だったBrian Hunter氏は、Deutsche Bankから2004年にAmaranthに転籍し、昨年は$75-100mm(約86~115億円)と言うボーナスを稼いで、業界紙Trader Monthlyで「最も稼いだトレーダー・トップ30」にランクされていたそうです。投資家から見れば稼いでくれさえすれば破格のボーナスも痛くないのでしょうが、それが単年度であったとすると、途端に高額のフィーの正当性が失われることになりそうです。また今回のようにロスの金額が大きい場合、最悪のケースではLTCMのように金融市場全体に計り知れない影響を及ぼすことになり、規制当局や一般の間での「ヘッジファンド悪者論」が再燃することは間違いない気がします。Amaranthのケースは、今のところ危機的状況に陥ることはなさそうで、市場の安全弁が機能しているのがせめてもの救いですが、規制の少ない業界だけに、プレーヤーには規律が望まれるところです。
Dear Investor:
Last week, the Amaranth multi-strategy funds experienced significant losses in their energy-related investments following a dramatic move in natural gas prices. In an effort to preserve investor capital, we have taken a number of steps, including aggressively reducing our natural gas exposure.
As of this writing, we anticipate our year-to-date losses might be in excess of 35% as we near completion of the disposition of our natural gas exposure.
We have met every margin call to date. We are in discussions with our prime brokers and other counterparties and are working to protect our investors while meeting the obligations of our creditors.
We will report to you frequently as soon as we have further significant information.
Nicholas Maounis
ん~、やはりこちらの業界は怖いですな・・・まぁ、逆に、そういうリスクの裏返しが、魅力なんでしょうね。
ご無沙汰しております。NYでは最後にお目にかかれず大変残念でした。今はシティ探検中、といったところです。またお会いできるのを楽しみにしております。
ご無沙汰しております。NYでは最後にお目にかかれず大変残念でした。今はシティ探検中、といったところです。またお会いできるのを楽しみにしております。
はじめまして
同ファンドに投資をしていたファンド・オブ・ファンズも少なくないようで・・・
日本の投資家が被害をこうむっているようですよ。
同ファンドに投資をしていたファンド・オブ・ファンズも少なくないようで・・・
日本の投資家が被害をこうむっているようですよ。
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
最近の金、原油、天然ガス、粗糖等は値動きが激しいですからね。そのくらい飛んでも不思議ではありません。リスク管理をしていると夜も寝られない状況です。
harryさんおかえりなさい!!
丁度Amaranthのことが気になっていたのでとても面白い記事でした。
にしても数週間で-60%はやりすぎです。
丁度Amaranthのことが気になっていたのでとても面白い記事でした。
にしても数週間で-60%はやりすぎです。
一部ご指摘の通り、現在同社はローンのポジションなどを必死に換金しているようで、天然ガスとは関係ない市場に影響が出ていると聞いています。また同社に投資していたモルスタのFoFなどの損失も拡大しているようです。
Amaranthとは過去に案件をやった事がありますが、非常に優秀な人たちの集団、というイメージでした。しかし私から見ると、ディレクショナルなリスクを取るファンドと流動性のない銘柄を買い上がるようなファンドは、極めてハイリスクに見えるのですが、投資家(FoFなど)がヘッジ比率や流動性リスクをどの程度まで監視しているのか、大変興味があります。
Amaranthとは過去に案件をやった事がありますが、非常に優秀な人たちの集団、というイメージでした。しかし私から見ると、ディレクショナルなリスクを取るファンドと流動性のない銘柄を買い上がるようなファンドは、極めてハイリスクに見えるのですが、投資家(FoFなど)がヘッジ比率や流動性リスクをどの程度まで監視しているのか、大変興味があります。
新しい情報によると、Amaranthの損失は$4.6bnに上っているそうで、エネルギー部門を第三者に譲渡する交渉をしているそうです。譲渡先はヘッジファンド大手のCitadelとJP Morgan、Citigroupの名前も聞かれます。Goldmanなども買収を打診していたようですが、各社とも相当有利な価格で買い取りを打診しているのでしょうから、まさに「ゼロ・サムゲーム」ですね。
ヘッジファンドのインセンティブ・フィーは、リスクあたりのリターンになっていないのでしょうか?もし、インセンティブが単純にリターンの増加関数になっていたら、運用担当者のモラルハザードを引き起こしますよね。
アマランスの投資家宛の手紙、面白く拝見しました。
「あぁ、謝らないんだ・・・。regret さえしないんだ。」
というのが率直な感想です。とんだビロニストですね。
「あぁ、謝らないんだ・・・。regret さえしないんだ。」
というのが率直な感想です。とんだビロニストですね。
はじめまして。実はこの会社、うちの主人が面接を受けて、あやうく(!)、就職するはずの会社だったんです(もしそうだったら今頃は・・・)。
アメリカの超高級の海辺の家は、みんな「Hedge Fundersのものよ」と幼稚園の先生が言っておりました・・・・笑
アメリカの超高級の海辺の家は、みんな「Hedge Fundersのものよ」と幼稚園の先生が言っておりました・・・・笑
































