Red October |
その記事によると、$8bn(約9200億円)を運用するAtticus Capitalは、今月だけで9%ダウン(通年では40%アップ)、有名なアクティビスト投資家Daniel Loeb氏が運用するThird Pointの最大のファンドも、9%ダウン(通年では11%アップ)など、かなり大きな損失が目立つそうです。他にも大手ファンドで5%~10%の損失を出したところが結構あるそうで、その多くが軟調なエネルギー株や、発表されていたM&Aの撤回によるもののようです。
ヘッジファンドはその名の通り、市場の動き(マーケットリスク)を、投資信託などが禁じられているショート(売り持ち)ポジションなどを使って「ヘッジ」しているはずの投資家で、それこそが市場全体のパフォーマンスに勝てる要因の一つと言われています。
市場環境に関わらず大きな絶対リターンを生み出すヘッジファンドのマネージャーは、投資信託のファンドマネージャーと異なり、絶対リターンにリンクした成功報酬制によってインセンティブ付されており、業界では運用手数料1~2%に加えて、成功報酬20%などが一般的と言われています。例えば1,000億円の資金を運営していて、年間20%(200億円)の利益を上げれば、そのファンドの年間の収入は、2%(20億円)の運営手数料+200億円×20%=40億円の成功報酬の、合計60億円と言うことになります。こういったファンドが10人以下で運営されている事が多い上、成功報酬の多くがファンドマネージャーの懐に納まるので、常に優秀な人材を惹きつけています。
にも関わらず、やはりヘッジファンドも、市場変動の影響は避けられないことが多いようです。その原因は、完全に「マーケットニュートラル」なポジションを取るのは難しいからだと思われます。
例えば同じ業界の中でA社の方がB社よりいい会社だと考え、A社をロング(買い持ち)、B社をショート(売り持ち)するとします。仮にA社のパフォーマンスに関係なく市場全体が値下がりした場合、A社のロングポジションの損失を、B社のショートポジションからの利益でカバーするわけです。そして、「A社がB社よりいい会社だ」と言う読みが正しければ、A社よりB社の値下がりが大きいはずなので、差額が利益となるわけです。値上りの場合も同様で、A社の値上り益はB社のショートポジションの値上り損をカバーするだけ大きいはず、と言うわけです。こうしてマーケットリスク(β)はニュートラルのまま、株の選定能力(α)だけで勝負するわけです。
こういう投資戦略のファンドを一般に「ロング・ショート」、または「ストックピッキング」ファンドと呼んでいますが、上の例でも分かる通り、この「微妙」な差額のみが利益になるため、大きな利益を上げようと思ったら、必然的にポジションを大きくする必要性が出てきます。それは言うのは簡単ですが、実際には大きなポジションを思い通りに作るのが難しいため、結局はある程度のマーケットリスクを取り、ロングかショートのどちらかに偏重する傾向があります。
また、NYTの記事では、ヘッジファンドにお金が集まりすぎて、みんな同じようなポジションを取る結果、市場が崩れると影響が広がってしまうと言う意見も紹介していました。
例えば有名なファンドマネージャーであるEdward Lampert氏がSearsの経営権を取得した為、他の多くのヘッジファンドもLampert氏に追従してSearsにロング・ポジションを作りました。今月Sears株は5.6%下げているため、多くのヘッジファンドがそこで損失を出したことになります。もちろん一部はヘッジされているでしょうが、大物Lampert氏の動きに賭けていたファンドも多くあることは想像に難くありません。
他にも、石油価格の上昇に賭けていたり、特定地域の株にフォーカスしていたりしていると、その動きの反動で短期間に大きな損失を出すこともあるようです。また、M&Aの発表前後でのアービトラージ取引を行う「リスク・アービトラージ」と呼ばれるファンドにとっては、CablevisionのMBO、Johnson & JohnsonによるGuidantの買収など、発表されていた大型M&Aの実現が危ぶまれていることも、ポートフォリオを傷つける結果となったようです。
ちなみに、「Red October」はソビエトの10月革命のことで、実在するか分かりませんが、映画「レッドオクトーバーを追え!」で取り上げられた旧ソ連の潜水艦の名前です。別にマーケットと「全然」関係ないのですが、「10月」が軟調=「赤字」だと言うので頭に浮かんだので、タイトルにしてみました。。。(ご覧になっていない方、Sean Connery熱演の、いい映画ですよ)