メディアの乗っ取り屋?それとも解放者? |
Icahn氏はアメリカの著名なFinancier(資本家、投資家)で、Forbes誌によると、資産総額は約9350億円にも上るそうです。NY、Queensの中流家庭に生まれ、プリンストン大学で心理学を勉強した後にNYUの医学部に入学。「死体」と仕事をしたくないと医学部を中退した後、今ではMellonグループの傘下に入っている証券会社Dreyfus社で株式業務の経験を積み、後に独立して投資を始めたそうです。1980年代には石油大手のTexacoの買収などで名を馳せ、最近では経営者に物を申す、いわゆるアクティビストのヘッジファンドを経営しています。
そんな彼が、メディア最大手のTime Warnerに狙いを定め、Franklin Mutual、JANA Partners、SAC Capital Advisorsといった著名なファンドと共に同社の数%の株式を取得、潜在的株価は現在の株価の倍はあるとして、資産の売却や配当金支払いを求めているわけです。
Time Warnerは、株式時価総額9.2兆円の、アメリカ最大手のメディア・コングロマリットです。最近セントラルパークの南西角に巨大なツインタワーを建設し、ロックフェラーセンターにあった旧本社から移動して来ました。ツインタワーの一つは高級ホテルのマンダリン・オリエンタル、もう一つはマンションになっています。最上階のペントハウスは史上最高額の$42.25 million、約47億円で、イギリス人FinancierのDavid Martinezが購入したそうです。
(下の写真は左がTime Warnerビル、中央の黒いビルは不動産王Donald Trumpのホテル兼マンション、その後ろはUpper West Sideです。40階からとってもまだこの高さ。。。)
Time Warnerがいかに大きな会社かと言うのは、傘下の企業を見てもらえば分かると思います。
<映画・製作>
Warner Bros (ハリウッドスタジオ)
New Line Cinema (ハリウッドスタジオ)
<テレビ>
WB (地上波テレビネットワーク)
HBO (映画プレミアチャンネル)
CNN (ニュースチャンネル)
TBS (ドラマチャンネル)
TNT (映画娯楽チャンネル)
Cartoon Network (アニメチャンネル)
<インターネット>
America Online (ポータル)
<出版>
Time Inc. (People、Sports Illustrated、Timeなどを抱える出版最大手)
<ケーブル>
Time Warner Cable (ケーブルテレビ第二位)
<スポーツ>
Atlanta Braves (MLBチーム)
NASCAR.com (レースカーサイト)
PGA.com (ゴルフサイト)
元々、映画チャンネル老舗の「HBO」を傘下に抱えるTime社と、ハリウッドスタジオであるWarner Bros.が1989年に合併して出来た会社ですが、その後も1995年にCNNを傘下に抱えるTurner Broadcastingを$7.5 billion (約8250億円)で買収するなど、様々なM&Aを通じて成長して来ました。
アメリカの企業に典型的な、事業間のシナジーの追及や成長分野への積極投資を行う経営スタイルは、ハリウッドのリラックスした雰囲気からは想像できない感じです。実際戦略部門や財務部門の人達は、マルチプルがどうの、レバレッジがどうの、とバンカーと同じ言葉を操ります。AOLへの売却など失敗も経験していますが、基本的には今後も米メディア界に君臨し続けるのでしょう。
こうやって様々な株主価値向上策を施しているように見えますが、Barron'sの記事で取り上げられていたように、大手メディア企業は、M&Aによる「帝国」の建設を重視する傾向があります。そのためIcahn氏やウォールストリートのアナリストが求めているような、強固なバランスシートを利用してデットを増やし、株主に資本を還元する、と言った行為は、将来的なM&Aの可能性を狭めることになるため消極的です。
と言うわけで、当然会社側としては、経営の柔軟性を確保するために不必要なデットの積み上げはしなくない、と主張するわけです。(それはそれで正当な主張だと思いますが。)また、Time Warnerとしても、Icahn氏が提案しているような事業部門の売却は前々から検討しており、そう考えると、事態の収拾は時間の問題かと思います。まああれだけ色々やっていても株式市場に評価されず、その厳しい現実に対応を迫られるアメリカの経営者は、本当に大変だと思います。
ところでCarl Icahn氏は、「Corporate Raider」(企業の乗っ取り屋)などと言われて、多くの企業経営者から敬遠されていますが、本人はその呼び名が気に入らないようです。まさに映画「ウォールストリート」のGordon Gekkoの例のスピーチを思い出させます。
"I am not a destroyer of companies. I am a liberator of them!"
(私は企業の破壊者ではない、解放者だ!)
怠慢な経営者からの解放者、と言う意味なのですが、まさに「ものは言いよう」という感じです。(ウォールストリートのカルチャーですが)
そんなIcahn氏、実はラスベガスのタワーホテル、Stratosphereも所有しているそうです。行ったことがある方はご存知かと思いますが、何とこの300m級のタワーの屋上に、ジェットコースターがあります。他にも宙吊りになる乗り物やら、ビッグショットやら。
去年あるプロジェクトのDDでよくラスベガスに行ったので、会社の若者と一緒に乗ったのですが、奴はまじで固まっていました。(そして今年、宙吊りのまま故障したらしい。。。)